しばらく前から考えていたことを書いてみようと思う。まとまらないとは思うけれど、まあご愛嬌。
ちょっと前に、伊藤典夫編「SFベスト201」(新書館 …関係ないが、この表紙はもうちょっとどうにかならんかったか?)と、大森望「現代SF1500冊 乱闘編1975〜1995」(大田出版)を購入した。どちらもSF小説のブックガイドだが。かなり趣きは異なっている。
前者は、今までにも数多く(いや、多くはないか(笑))書かれたSF小説のガイドブックと同じようなスタイルをとっている。つまり、何冊ものオススメ本だか必読書だか、まあそういった本を、何人もの評者たちが紹介しているというスタイル。書き手が単独であるか複数であるかという違いはあれ、このスタイルのガイドは多い。SFを読み始めた頃お世話になったハヤカワ文庫の「SFガイドブック」や、伊藤典夫の序文でも触れられている自由国民社の「世界のSF文学・総解説」もそう。
この手の本は通して通読するより、適当なところを開いてパラパラとやるのがなんとも言えず楽しい。風間賢二の「いけない読書マニュアル」なんかも、同じような読み方して、すっげえ楽しんだような記憶がある。
後者は、逆に通して読んだ方が面白い。大森望が様々な雑誌や新聞で書いてきた書評を集めたものだからである。様々な本に対する大森氏の評価ももちろんなのだけれど、それよりもその当時どんなSF小説が出版されていたか、シーンがどんな様子だったかが垣間見れて、面白いやら懐かしいやら。25歳以上のSFファンにはオススメ。
24歳以下のSFファンなんて実在するのかという疑問は、俺の胸の奥にしまっておこう。 SFのみならず、こういったジャンル小説のガイドブック(場合によってはジャンルを跨いだガイドブック)というのは古今東西いろいろある。いや、小説に限らず、映画でも音楽でも色々あるな。要はあるジャンルのシーンを概観して、それを広めることを目的とした本。個人的に、そういったシーンを概観する作業を「地図作り」と呼んでいる。
でだ、SF小説を出している出版社といえば早川書房に東京創元社、も一つおまけに徳間書店といったところが老舗なわけだ。
今までSF小説のガイドブックというと、なぜか海外モノ主体であることがやたらと多く、必然的に早川書房や東京創元社、それと今は亡きサンリオSF文庫の作品が多く取り上げられてきた。
さて、ここんところ、SF小説というのは割りと元気が良い。10年位前は「冬の時代」やら「クズSF論争」(関係ないが、今考えるとこれは壮大な(ジャンルの規模を考えると卑小な?)茶番だった。私がSFの評論に全く興味がもてなくなったのはこの頃からだ)やら言ってた訳だが、いやいや、隔世の感がありますな。
今の好調を支えているのは、海外小説の翻訳においては河出書房の〈奇想コレクション〉と国書刊行会の〈未来の文学〉という二つの野心的な叢書であり、国内においてはライトノベルを主な活躍の場としていた作家を多く起用した〈ハヤカワSFシリーズ Jコレクション〉及びここ最近のハヤカワ文庫JAだったりする。まあ細かく言うと色々あるけど、そこは目を瞑っていただいて。
何が言いたいかというとね、今の好調を支えているこういった要素が、従来の地図作りでは軽視、場合によっては丸っきり無視されていたのではないかということなんだよ。
重視していたとは言わさねえぞ。
従来ノーマークであった出版社(まあ、国書はそうでもなかったかも(笑))や、ノーマークであったジャンル(「ライトノベル」をジャンルとしてくくるか否かは、とりあえず置いとけ)から、今の状況はもたらされたわけで、じゃあ、それらを軽視してきた地図ってなんなのさ? とか思ってしまったわけだ。
話は更に続く。
私はライトノベルの良い読者ではないが(興味はあるし何冊か買ってもいるんだけどね、なかなか読めない)、隣の芝生から見てみるに、ライトノベルにおいても地図を作る作業が盛んになってきているように見える。
いや、いいんだよ。地図を作るのは楽しいし、他人が作った地図をあーでもないこーでもないと眺めるのも楽しい。
また、過去の作品や他の作家の作品と関連付けて小説を読んでいくというのもそれはそれで楽しいし。
気になるのは、地図に載らなかった場所はどうなるのかってことなんだわ。既に述べたとおり、SFはそれで一度大失敗している。(もちろんベテラン作家も精力的に活動しているけれども)今のシーンの屋台骨を支える作家たちがデビューしたり、デビューしようとしていたその時期に、彼らにほぼ無視を決め込んでいたんだよ。地図に載っけていなかったばっかりに。
要は、地図も楽しいばかりではないってこった。地図は楽しくわかりやすいが、境界線もあるし縮尺や解像度の問題もある。しかし、かつて地図の外にも土地が広がっていることを忘れたばかりに、読者も作者も不遇をかこった愚かなジャンルがあったのではないかってことで、ライトノベルにはその轍は踏んで欲しくねえなってこったよ。
まあ、年寄りの愚痴だと思って、大目にみてくれ。