あの9th WonderとMCのBig Pooh、PhonteからなるLittle Brotherの2ndアルバム“
THE MINSTREL SHOW”を購入。
飛びぬけて印象に残る曲があるわけではない。しかしながら、アルバム全体を覆う空気が実に素晴らしい。
聞いている間はあの黄金時代へ戻ることができる。ATCQ、Gangstarr、Pete Rock、De La Soul、Da Beatminerzといった連中がシーンを牽引していた、あの90年代へ。
てな書き方をすると懐古趣味と思われそうだな。しかし喜ばしいことに“THE MINSTREL SHOW”は微塵も古さを感じさせないアルバムだ。例えばあなたがロックのファンだったとして、3ピースの編成を見て、古臭いと一蹴するだろうか。例えばあなたがミステリのファンだったとして、「嵐の山荘」に挑んだ作品を古臭いと一蹴するだろうか。例えばあなたがSFのファンだったとして、宇宙空間を舞台にした作品を古臭いと一蹴するだろうか。そんなことはないよな。「古い皮袋に新しい酒を注ぐ」とは使い古された表現だが、昔から現在まで通用し続けている方法論だ。
しかしあれだ、「サンプリングを駆使する」という、かつては当たり前だった、王道を行く手法が、10年のときを経ずして新鮮な手法として熱い支持を受けるってのもアレだな(笑)。それだけ90年代末からのメジャーシーンの台頭によってアメリカのHIPHOPが変質してしまっていたということなんだろうけど。
ただ、9th WonderにせよMadlibにせよKanye Westにせよ、ただサンプリングしてループするだけではない、音質的な意味でも過去の作品の再現を試みているように思える。歌詞は過激なまま音だけがどんどんキレイになっていってしまったような印象を、90年代末以降のHIPHOPに抱いているのだけれど、そういったキレイな音へのカウンターとしても捉えることが出来るのかな?
そんなことはさておき、アルバム全体としてのまとまり、アルバム全体のクオリティという点で、この作品は非常に優れているのだ。個人的にはBlack Star“
TALIB KWELI & MOS DEF ARE BLACK STAR”、The Pharcyde“
LABCABINCALIFORNIA”、Tha Alkaholiks“
Coast 2 Coast”、The Roots“
DO YOU WANT MORE?!!!??!”といったアルバムに比肩すると思うし、ひょっとしたらATCQ“
The LOW END THEORY”、Black Moon“
ENTA DA STAGE”、Gangstarr“
HARD TO EARN”といったアルバムにも比肩してしまうかもしれない。今のところ、今年のベストはこれ。聞いているうちに自然と体が動くアルバムに出会えた日は、本当に心の底から幸せだ。