2004年08月03日

三田氏の理屈は中古屋を説得できるか?

というわけで、8月2日に行われた文化庁の著作権分科会。
三田誠広委員がこんな発言をしたそうだ。作家である三田氏の著作についてはこちらでも見ておくれ。手軽なんでAmazonのリンクを貼るけど、このリンクから購入しないでいただけるとありがたい。この人の売上にはあまり貢献したくないので。
それはそうと、発言だ、発言。分科会のレポートを上げてらっしゃるサイトさんはいくつかあるけど、ここでは造反有理さんから引用させていただくと……


三田氏:(前略) 中古販売では、従来から、ゲームソフトや音楽CDの場合はデジタルなので簡単にコピーができ、しかもそれがクローンコピーで元と全く同じである、これに対する権利を守らなければならない、という文脈で語られることが多かった。そして、書籍の場合は、コピーしても製本がうまくいかないので元のものとは違うとして、それらとは区別して考える考え方がある。
 確かに、手元に本を置く欲望を我々は持っており、購入した人からその譲渡に対して対価を求める形で著作権使用料をいただいていたが、昨今は読書事情も変わり、多くは本の所有には関心をあまり持たない状況となっている。漫画や推理小説のようなものについては、繰り返し読まないものが多い。音楽CDのようにコピーを取って繰り返し聞くことがなくても、古本屋で買って読んだら物体としての書籍には価値がないということでまた古本屋に売りに行くということが起きる。推理小説の読者は犯人がわかればよいのである。
 新刊書を買っている人も古本を買った人も同様に本を読むということを享受している。本を買った人は著作権料を支払っているのに対して、古本屋で購入している人は払ってないという状況が生じている。書籍を楽しんだ人から平等に使用料をいただくというのが本を生産したりする者の当然の考えと私は考えている。中古品流通に対して、デジタルと一般書籍を区別なく平等に検討して頂きたいと思う。


「漫画や推理小説のようなものについては、繰り返し読まないものが多い」というところは、まあ、三田氏のあまりの認識の甘さに苦笑するしかないというか。
両ジャンルのファンにとっては、この発言は侮辱以外の何物でもないし、一般に、活字の本より漫画のほうが、繰り返し読まれることが多いと思っていたが、違うのか?
これについては、Copy&Copyright Diaryさんも、不快感を表明している。同感だ。


で、最後の段落だ。この理屈で中古屋は納得し、著作権者に金を払う気になるのだろうか?
これはもう、はっきりとNOだ。
少なくとも、現役新古書店員の私は納得しないぞ(笑)。
大体昔から、本が売れなくなったことや万引きが増えたことを新古書店のせいにされて。大体万引きにあってるのは新古書店も同じ……まあ、とりあえずはそのことは置いておくとして。

「書籍を楽しんだ人から平等に使用料をいただくというのが本を生産したりする者の当然の考えと私は考えている」
なるほど。
では、三田氏が中古車を買うときは、自動車メーカーに自主的に対価を支払うべきだ。
ハヤシライスを食べるときも、考案者の林さんに金を支払え。

なぜ、著作物にだけ、そのような特権的な地位が与えられ得ると考えるのか、理解に苦しむ。なんだっけ? 消尽しない譲渡権だっけか?
いや、本当にわからないのだ。誰か、私にもわかるように説明してくれ。
世の中にあまたある文化的な商品の中で、なぜ著作物だけが特別扱いされるのだ?
私の持っている本やCDやゲームは、私の私有財産だとばかり思っていたのだが、これらは著作権者から借り受けているものなのか? それなら、勝手に中古屋に売るなってのもわかるのだが。
だったら、返却したい本がダンボールで何十箱かあるから、返却先を教えてくれ。



というかね、これというのは、今まで出版界が作り出し繰り返してきた理屈「新古書店のせいで本が売れなくなった」って代物から、自縄自縛的に導かれた権利の要求だわな。
それなら、出版界の皆様には、いいニュースと悪いニュースがある。

いいニュースは、新古書店という業態な、これ、業界内でも、既に成長の鈍化が始まっており、数年後にはマイナスに転じるだろうという予想が強いということ。
つまり、あなたたちの商売を脅かしていた新古書店は、数年後には減っていくのだ。おめでとう。

悪いニュースは、強引に「消尽しない譲渡権」を映画以外にも創設して、中古屋から利益を得ようとしても、そこから得られる収入は毎年目減りしていくだろうということ。
もっとも、新古書店の衰退に伴って、新刊の売れ行きが回復すれば問題ないわけだが。
安心しろ。逆立ちしたって、そんなことで売上は回復しやしない。私が断言しよう。
posted by 旅烏 at 03:39| Comment(10) | TrackBack(1) | 出版業界関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
意外に誰も突っ込まないのが、再販制度絶対護持と言うのが
出版業界のあらゆる権利主張に直結していること。中には
無関係と断言する人物もいれど、無関係であることを証明する
根拠はただの一度も提示された試しが無いし。
Posted by 謎工 at 2004年08月03日 17:10
コメントありがとうございます。
再販制は、出版界の構造不況の要因のひとつですから、重要な問題ではありますね。
ただ、このエントリーで触れると冗長かつわかりにくくなるかな、と思って触れませんでしたが。
もひとつ、出版社と取次の権力が、なんかやたらめったらでかい気がするってのも、再販制と強く結びついた問題ですね。これは、両者セットで取り上げる必要があります。
再販制がなくても、ゲーム市場のようになってしまっては、あまり意味はないわけで。
稿を改めて書くべき問題かと思っております。その時間が取れるかはわかりませんが。
Posted by 旅烏 at 2004年08月03日 18:52
って言うか、ゲーム業界の構造不況が元々は
ソニーが「ゲームを再販制度の対象(但し、返品ナシの
岩波と同等ないしそれ以上の悪条件)にする」ことを
公約に掲げて大手メーカーに有利な囲い込みを進めた
ことに起因するってどのぐらいの人が気付いて
いるんでしょうね?

大体、新品の8割方がメーカー直販ルートで75〜85%なんて
他の業種から見て信じられないような悪条件で卸されて
いる問題の方がずっと歪んだ業界構造の大元凶だとしか
思えないのですが。
Posted by 謎工 at 2004年08月03日 20:33
>返却先を教えてくれ。
三田サンの本なら新古書店で安く買ってみんなで著作者に返品しませんか。住所もわかりそうなもんだが。
Posted by k at 2004年08月04日 04:54
> 住所もわかりそうなもんだが。

図書館で「著作権台帳」を調べるとか。
Posted by 匿名 at 2004年08月04日 16:34
さすがに、勝手に送りつけるってのも、法律に引っかかりそうで嫌な予感が(笑)。
でも、返却先の問い合わせはしてみたいっすね。マジで。
Posted by 旅烏 at 2004年08月04日 21:01
「本は定価で」「積読はしない」「本は売らない
」がモットーの僕にとってみれば、新古書店はいくばくかの対価を払ってもいいんじゃないかなぁ、などと思ってしまうわけです。
中古市場なんてものはいわば影でしかなく、実体であるところの出版界が瓦解すればまた運命を共にするわけです。
現状の新古書店には消えたはずのチーズであふれ、誰かの遺言で一杯なのではないですか?
あと半年もしたら、どこもかしこも世界の中心と化すでしょう。
つまるところ、「中古であったとしても欲しくない本」であふれているのです。
だからこそ、得た利益はある程度還元して、業界を活性化していかなければ、「中古屋」という商売そのものが成り立たなくなるんじゃなかろうか、と思うのです。(何か書いてて凄い陳腐な表現だなぁ)
それに、新古書店は二束三文で買い叩いた本をそれなりの値段で市場に供給しているわけですから、ある意味消費者の敵といえなくもありません(笑)

さらに、「万引き」をスリルやサスペンスとは無縁の単なる経済行為にまで高めた罪は断罪されてしかるべきですし(笑)

まぁこれからは、中古車販売のように、「講談社アウトレット」とか、「小学館バザール」とか、出版社自らが、新古書業界に乗り出してみる、っていうのはどうでしょう。
ややこしい権利関係が消えて、いいと思うんですが。


Posted by scifighter at 2004年08月07日 00:47
scifighterさん>出勤前なので手短に行きます。
新古書店が出版界の影であるというのはその通りで、それだからこそ、その影のせいで自分たちが死にそうであるという出版界は情けないのです。

「中古であったとしても欲しくない本」で溢れているというのもその通り。
だからこそ中古屋に金を払えというのは、レコード輸入権の問題と同じく、小手先の延命措置以外の何物でもありません。それで出版界が活性化されるという認識こそ、問題です。
定価だろうがそうじゃなかろうが、欲しくない本が溢れているマーケットが活性化などすると思いますか?
市場に並ぶラインナップをそのまま放っておき、出版社の実入りを増やすことで出版界が活性化するとでも?

中古本の荒利率ですが、単品のみで見ると、そういった印象を受けると思います。
問題は回転率です。
新古書店は、デッドストックで溢れかえっています。決して少なくない本が売れることなく、やがて古紙業者の手へと渡るのです。
そこのところも、考えてみてください。

新古書店が万引きを歓迎しているかのような表現は止めていただきたい。
多くの店は独自にブラックリストを作り、怪しげな買取には制限をかけ、警察には全面的に協力しています。
私たちも、万引きを人一倍憎んでいるというのに、書店側は私たちと協力して万引きを減らそうとはせずに、万引きを私たちのせいにしている。
失礼で、腹の立つ話です。ふざけたことをぬかすな、と。

出版社自らが新古書業界に乗り出す、というのは賛成です。
Posted by 旅烏 at 2004年08月07日 07:06
実際、出版業界も細々と街の片隅で古本業を営んでいる分には、それほど煩くなかったんじゃないかと思うんですね。しかし、いまや市場規模は600億円とまで言われていて、そのような状況の中で、やっぱり著作権、というのは避けて通れないと思うんですよね。
ニッチ産業として、新古書業態は大きくなりすぎたと思うんです。
それに、定価で人気の新刊本を買って、それを売りに来る人がいなくなってしまったら、それだけ新古書店の潜在市場は縮小していくわけですし、共存の道を探るのが得策なんじゃないかと。

万引きに対しては、僕も扇情的なニュース記事で知る範囲の事柄で書き込んでしまいましたので、申し訳ないです。
ただ、ブック○フで利用されている販売承諾書などは偽造し放題とも聞いています。すでにそういうネットワークもまた出来てしまっている、ということです。

デッドストックに関して言えば、ブック○フ的な人気の軽重を問わない、「目利き」ではもはや多様性と貪欲さを誇る現在の消費者に対応できない、ということではないかと。
簡単に言うと、「企業努力が足りない」としか言わざるを得ないんじゃないでしょうか。

・・・しかし、1年ほど前に確か新古書店の業界団体が、基金を拠出して何らかの形で著作権者に還元したいとしている、という話を聞いたことがあるんですが。
新古書店が安定して成長していくためにはそういう課題をクリアしないといけないんじゃないかなぁ、と思うんです。
新古書店が「読書」という行為を非常にカジュアルにした功績はあると思いますし、僕は前回「安くてもいらない本」と言いましたが、逆に「100円なら読んでみようかなぁ」と思う本があるのもまた事実です。
しかし、このままでは、新古書業態そのものがネガティブなイメージで捉えられてしまうと思うんです。

法律とは危険運転致死罪の例を見るまでもなく、いつも事後的なもので、「今法律上問題がないからいいじゃないか」では、議論が進まないような気がするんですよね。



Posted by scifighter at 2004年08月09日 23:54
まず、私の中での結論から申し上げますと。
新古書店という業態が、今後も安定して成長を続けるわけがありません。
エントリーでも書きましたが、新古書店が占めるニッチは、そもそも既にあふれかけているんですよ。
今後はよくても現状維持。おそらくは縮小するんですよ。
そこで、各社とも次の手を探っています。具体的には、ブックマーケットの、著作物以外を扱うリサイクルショップ店舗「セカンドストリート」の展開や、古本市場を展開しているのと同じ会社によるインターネットカフェの展開などですね。

というかね、細々と街の片隅で古本屋やってる分には良くて、それを大々的にやると「著作権者を守るための」著作権法で規制するってのは、いいんですかね。
「今法律上問題がないからいいじゃないか」ではなくて「新たに法律上の権利をつくる必要があるのか」の問題ですので、お間違えのなきよう。
「著作物『だけ』、そんなに保護する必要があるのか?」という問題なんですよ。

このままでは新古書業態そのものがネガティブなイメージでとらえられてしまうとのことですが、そもそも、ネガティブなイメージを喧伝しているのは誰なんでしょうね。
出版界のネガティブキャンペーンに乗っかる必要はないでしょう。

以下は、細々した話になります。
まずはデッドストックの件。
新古書店は古本の発注などできないですので、棚に並ぶラインナップは、完全に利用者に依存しています。
ブックオフのとっている戦略は、買い取ることの出来るラインナップを最大化しようというものです。
簡単に言うと、買取不可のタイトルを極力減らそう、というものです。「持っていっても買い取ってくれない」という不満を減らそうというもの。
これも、実は企業努力の産物である、というお話です。
まあ、それが絶対的なものであるというつもりはありませんけどね。

販売承諾書の偽造ってのは初耳ですが、それは、そこに書く住所や保護者名や印鑑や電話番号といった事項も含めての偽造でしょうか?
そうならば極めて悪質です。とっとと警察に摘発されていただきたい。
そうじゃないならば、さほど問題ではないかと。重要なのは書式ではなく記されている個人情報ですので。

Posted by 旅烏 at 2004年08月10日 00:33
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Weblog: Cachu's Square
Tracked: 2004-08-03 05:05