本日は買取がとても多く、忙しい一日。
ふと横に目をやると、パートさんが、あるお客さんの持ち込んできた本を前に、なにやら難しそうな顔をしている。
どうしたのかと聞いてみると、このお客さん、昼間にも来た気がするとのこと。顔と、商品を入れてきた鞄に覚えがあるというのですよ。
持ってきたラインナップを見てみると、高価買取中の小説ばかり。ハリーポッターの最新刊やら「空中ブランコ」やら「冬のソナタ」の小説版やら、まあそこら辺のやつがごっそり。
これは露骨に怪しい。
昼間の記録をチェックしてみると、同一人物と思われるお客さんとラインナップが8割がた重なっている。益々怪しい。
査定が終わったら呼び出すために、お客さんの名前を記入してもらっているのだけれど、昼間と名前が違うのに筆跡はそっくり。
おまけに、自分の名前を書くのに何回も間違えていたという。どちらか片方、あるいは両方が偽名なのだろうか?
とにかく、これ以上ないくらいに怪しい。
でもねえ、同一人物であることを証明は出来ないわけですよ。指紋が取れるわけでも、筆跡鑑定が出来るわけでも、詳細な映像が残してあるわけでもなし。
それで、どのようにしたかというと……
……いや、普通に買い取るようにして、買取承諾書に必要事項を記入してもらったわけです。
で、いかにも「ああ、うっかり忘れていた」という風を装って、免許証等の身分証の提示をお願いする、と。
予想通り、向こうは「持ってきていない」と言うわけです。
ここで身分証の不提示を理由に買取をお断りしても良かったわけですが、一箇所ボロが出たので追い討ちをかけてみました。
「お客様、昼間にこられたこちらのお客様と同じ電話番号を書かれていますけど、お知り合いか何かですか?」
お客さん曰く「言付かって来ているので」だそうで、まあ、良く考えるとその言い分も妙なわけですが(笑)、「同一人物から同じ商品を買い取ることは出来ません」とお断りしました。
店長に報告した結果、そのお客さんからの買取は、以後、全部お断りすることと相成ったわけですが。
これでまた店に顔を出すようなら、余程気が回らない人なんだろうなあ(笑)。
これも、パートさんがそのお客さんを覚えていたから出来たことで、怪しげな商品ってラインナップや汚れ方でわかるものだし、そういう買取は記録を残してあるものです。
そういった「要注意」情報を、系列の店で共有するというのも良くある話で。
要するにこの文章で何を言いたいかというと、「今日は疲れたけど、あれはスッとしたなあ」と(笑)。
もしかすると、一度目の商品は正当な手段で手に入れたものではないかもしれない。
二度訪れる、という間抜けなことをしなければ、彼の目論見は見事に成功していたわけで。
そしてきっと彼はまた別の古書店に赴くだけの話でしょうな。
限りなく怪しいのに、何も出来ない。
せいぜい、自衛策として不審人物からの買取拒否しかできない。しかもその情報は系列店のみにとどまり、他の古書店に持ちこまれれば、どうすることも出来ない。
不快に思いこそすれ、なぜスッとしたのか、良く分からないんですよね。
図らずも、不審な商品を見抜き、その買取を「断る」ということがやっぱり結構困難なことなのだなぁ、と改めて思ったわけですが。
何はともあれ、お疲れ様でした。
一度目の商品は、「おそらく」正当な手段で手に入れたものではないと思います。
「おそらく」なんですよねえ。
それをどうやって証明するか、なんですよね。
以前、別件で警察の方に店に来てもらったとき相談してみたことがあるんですが、特に有効な方法というのがないんですよね。職務質問ができるわけじゃなし。
要注意な情報を共有するためのネットワークを構築するというのは、今後の重要な課題だと思います。新古書店だけでなく、新刊書店やレコード店も巻き込んだ形でネットワークが構築できれば理想ですね。その道のりは遠いですが。
とはいえ、実際には怪しいと思っていても買取を断ることが出来ないケースの方がずっと多いわけで。
そんな中で、今後の買取拒否にまで持ち込むことが出来たというのは、一矢報いたってんですかね。気分が悪いものではないです。